六価クロムとは?
~基本的性質・有害性と国内での汚染事例~
六価クロムは発がん性が認められた有害物質で、土壌汚染の原因物質として規制が強化されています。近年、環境基本法や水質汚濁防止法など関連する法律での基準値改正が相次いでおり、土壌汚染対策法上の基準値も今後厳格化される可能性があるとして注目が高まっています。
製造業の現場では、かつて六価クロムを含む薬品やめっき処理が広く用いられていたことから、今でも六価クロムが検出されるケースがあり、六価クロムの性質や有害性など正しい知識を持っておくことが重要です。
ここで扱う「六価クロム」は、法令上は「六価クロム化合物」と呼ばれる物質群を指します。本記事では読みやすさを優先してこれを「六価クロム」と表記し、その基本的な性質や有害性について解説します。

六価クロムの基本的な性質
六価クロムとは何か?
六価クロムは、土壌汚染対策法において第二種特定有害物質に指定されています。
「クロム」とは自然界の岩石や土壌などに広く存在する金属元素の一つです。硬くて錆びにくい性質を持つことから、ステンレス鋼やめっきの素材として私たちの身の回りの製品にも幅広く使われています。ただし、クロムには複数の形態があり、その性質は全く異なります。自然界に幅広く存在する「三価クロム」はほとんど毒性がなく、実は人体に必要なミネラルの一つでもあります。
一方、「六価クロム」は人間の工業活動によって生じる有害物質で、自然界にはほとんど存在しません。強い酸化力をもち、皮膚や粘膜など触れた組織を変質・破壊する性質があり、発がん性を含むさまざまな健康への影響が認められています。
同じ「クロム」という名前でも「六価」になると性質がまったく別物になる、という点は重要なポイントです。
出典:環境省「六価クロム化合物に関する情報 資料5」2023年、P1,2
出典:内閣府食品安全委員会「清涼飲料水評価書 六価クロム」2018年
六価クロムは何に使われてきたのか?
六価クロムは、水に溶けやすく、金属表面処理に優れた効果を発揮することから、めっき液など金属加工や機械、自動車関連の工場で日常的に幅広く使われてきました。他にも、革製品の製造や塗料としても使用されてきました。
▼主な用途と使用場面
| 用途 | 具体例・使用場面 |
|---|---|
| めっき処理 | 金属の防錆 / 装飾など |
| 塗料 / 顔料 / 防錆剤 | 航空機 / 自動車 / 建材など |
| 皮なめし | 革製品の製造工程 |
| 酸化剤 / 触媒 / 耐火物 | 有機合成・印刷・医薬品など |
現在は、規制の強化や、毒性の低い三価クロムを使った代替技術の普及により使用量は大幅に減っています。しかし、使用が止まったからといって、地中の汚染が消えるわけではありません。かつて使用していた工場の土地には、当時の汚染が今も残り続けているケースがあります。
出典:環境省「化学物質ファクトシート 六価クロム化合物(第2版),管理番号88」2026年、P3
出典:環境省「地下水汚染の未然防止のための構造と点検・管理に関する検討会 資料7 有害物質の基本性状」2011年
六価クロムの土壌・地下水への浸透メカニズム
六価クロムは水中で陰イオンとして存在し、同じく陰イオン性の土壌粒子と反発するため吸着・固定されにくく、地下水中を広範囲に移動しやすい性質を持ちます。工場での使用や廃棄、保管の過程で地面にこぼれたり、廃液として排出されたりした六価クロムは、雨水とともに地中へ浸透します。
少量であれば有機物などとの反応によって三価クロムへと還元され、水に溶けにくい無害な形に変化します。しかし、大量に存在する場合は六価クロムのまま土壌中に残存するほか、地下水に溶け込み、地下水汚染という問題を引き起こします。
出典:環境省「土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン(改訂第3.1版),Appendix-1」2022年、p19,20
出典:環境省「地下水汚染の未然防止のための構造と点検・管理に関する検討会 資料7 有害物質の基本性状」2011年
出典:環境省「化学物質ファクトシート 六価クロム化合物(第2版),管理番号88」2026年、P4
六価クロムの有害性
六価クロムは、国際がん研究機関(IARC)においては「ヒトに対して発がん性がある(グループ1)」と分類されています。また、米国環境保護庁(EPA)の2024年(令和6年)の評価では、吸入経路での暴露について「ヒトに対して発がん性がある」、経口経路については「ヒトに対して発がん性がある可能性が高い」と結論づけられています。
さらに、2018年(平成30年)に行われた内閣府食品安全委員会の評価でも、動物実験の結果から発がん影響が認められています。
主な症状や影響としては以下が報告されています。
| 経路 | 主な症状・影響 |
|---|---|
| 皮膚・粘膜への接触 | 皮膚炎や潰瘍、腫瘍の原因になる可能性あり |
| 粉じんの吸入 | 鼻中隔穿孔を引き起こす可能性あり |
| 長期的な摂取・吸入 | 肺がんや消化器系のがんとの関連について報告あり |
発がん性を持ち、複数の経路から人体に影響を与えるという性質が、六価クロムが長年にわたって問題視されてきた理由です。
出典:米国環境保護庁(EPA)「IRIS, IRIS Assessment, Chromium(VI)」
出典:MSDマニュアル プロフェッショナル版「クロム中毒」(2023年7月改訂)
出典:内閣府食品安全委員会「清涼飲料水評価書 六価クロム」2018年、P10,11,134
国内で実際に起きた六価クロム汚染の事例
日本における六価クロムの土壌汚染問題において、最も広く知られているのが東京都江東区での事例です。
1973年(昭和48年)、東京都が日本化学工業株式会社から買収した江東区大島9丁目の都営地下鉄用地および市街地再開発用地で、クロム化合物の製造過程で生じる廃棄物「クロム鉱さい」が大量に埋め立てられていた事実が明らかになりました。その後の調査で、江戸川区においても同様の埋め立てが行われていたことが判明し、両区にまたがる広域の問題となりました。
本件は1975年(昭和50年)12月に東京都(交通局・都市計画局)が損害賠償を求めて提訴し、1986年(昭和61年)4月に和解が成立しています。
江東区、江戸川区ともに六価クロム問題への対策本部を設置し、健康診断、公共施設の土壌調査や環境調査などの行政対応がとられました。その後、鉱さいの還元および封じ込め処理が進められ、現在は公園として整備されています。しかし、発覚から半世紀以上が経過した現在もなお、東京都による大気・水質のモニタリングが毎年継続されています。
出典:東京都環境局「六価クロム汚染土壌対策」(2026年6月17日更新記事)
出典:江東区「六価クロム鉱さい問題」(2024年11月6日更新記事)
出典:江戸川区「六価クロム鉱さいによる汚染土壌」(2025年2月6日更新記事)
まとめ
六価クロムは、発がん性を持つ有害物質であること、そして地下水を通じて広範囲に拡散しやすいという性質から、土壌汚染の中でも特に注意が必要な物質のひとつです。規制基準の見直しも続いており、今後の動向により、現時点(2026年7月)で基準をクリアしている場合でも、将来的に対策などが必要になる可能性もあります。
この記事からわかる、六価クロムのポイント
- 六価クロムは三価クロムとは異なり、主に人間の工業活動によって生じる有害物質
- 国際がん研究機関(IARC)などでヒトに対する発がん性が認められている
- 水に溶けやすく、土壌から地下水に広がりやすい
- 将来的な土壌汚染対策法の基準値改正の可能性も注目されている
万が一六価クロムが検出されたり、指摘を受けたりした際に適切に対応するためには、守るべき基準値やどんな対策が取れるのかを理解しておくことが重要です。六価クロムに関する各法律での基準値や規制、具体的な対策工法については、以下の記事で解説しています。
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