原位置封じ込め

土壌汚染に伴う地下水汚染があった場合、土壌汚染を監督する行政から指示措置として原位置封じ込めを求められることがあります。
そのほか、汚染の除去よりも安価な自主対策として採用されるケースもあります。

対象物質

第一種特定
有害物質
(VOC
/揮発性有機化合物)
全種類
ただし、行政の指示措置として採用する場合は第二溶出量基準に適合させる必要があります。
第二種特定
有害物質
(重金属類)
第三種特定
有害物質
(農薬類)
その他 油類等や廃棄物等にも適用可能

原理

汚染をすべて除去せずに、側面は遮水壁、底面は自然地盤等の不透水層、さらに、表層部は舗装措置と同等の構造の覆いで囲い込み、有害物質が拡散しないようにします。
汚染の除去をせず、敷地内に残すことになるので「土壌汚染の管理」に位置づけられる工法です。

土壌汚染の管理の図

施工方法

地中壁工法(粘土壁工法・ソイルセメント固化壁工法)

難透水性(ほとんど水を通さない性質)をもつ粘土鉱物やソイルセメント(現地土と固化材を混ぜ合わせたもの)で遮水壁を築造する工法です。築造には専用の機械を使用して遮水壁を設置します。

工法イメージ

地中壁工法のイメージ1
地中壁工法のイメージ2
地中壁工法のメリット
  • 施工速度が速く、相対的に安価となることが多いです。
  • 比較的深い深度まで適用が可能です。
  • 粘土鉱物などで築造するため、地盤の変形に対する追従性が高く、地震に対する抵抗性が高いです。
  • 材料の腐食や変質が少なく、耐久性が高いです。
地中壁工法のデメリット
  • 玉石やがれき等の障害物があると施工不能となる場合があります。
  • 大型機械を使用するため、狭隘地や空頭制限がある場所では適用が難しい場合があります。
  • 大型機械を使用するため、小規模の施工は非効率になります。
  • 工法の性質上、複雑な形状の遮水壁の築造はコストが大きくなります。

鋼製矢板工法

鋼矢板という既製品の鉄板を地盤に差し込み、地中に鉄製の遮水壁を構築します。土壌汚染に限らず、様々な土木・建築工事に採用されており、実績が多数あります。矢板を打設する場合は対象とする地域の地質により適切な打設工法を選択します。

工法イメージ

鋼製矢板工法のイメージ1
鋼製矢板工法のイメージ2
鋼製矢板工法のメリット
  • 施工速度が速く、相対的に安価となることが多いです。
  • 工種によっては施工機械が比較的小規模で済みます。
  • 既製品を使用するため、施工品質が比較的均質になります。
鋼製矢板工法のデメリット
  • 玉石やがれき等の障害物があると施工不能となる場合があります。
  • 遮水壁の深度が深くなると高額あるいは適用不可になる場合があります。
  • 狭隘地や空頭制限がある場所では適用が難しい場合があります。
  • 地盤の性質によっては鋼材の腐食を検討する必要があります。

薬液注入工法

地盤中で硬化し遮水性を持つ薬液をポンプで注入することにより遮水壁を設ける工法です。土中の間隙(土の粒子のスキマ)や地盤の亀裂を遮水性のある薬剤で埋めることにより遮水性を発揮します。薬剤を注入する際にはボーリングマシンで地盤に注入孔を設け、薬液をポンプで圧送します。

工法イメージ

薬液注入工法のイメージ
薬液注入工法のメリット
  • 施工機械や施工設備が小型で小規模であるため、狭隘地で施工可能で、夜間のみの施工など時間的制約がある場合でも柔軟に対応できます。
  • 他工法の適用が難しい玉石混じり土や礫質土などでも適用が可能です。
  • 対象地に構造物がある場合でも解体無しで適用できます。
  • 施工深度に制限が少なく、非常に深い深度まで対応が可能です。
薬液注入工法のデメリット
  • 施工に時間がかかります。
  • 大規模になると高額になる場合が多いです。

高圧噴射攪拌工法

地盤中で硬化し遮水性を持つ薬液を、高圧ポンプで地盤中に噴射・切削・攪拌することにより遮水壁を設ける工法です。狭隘地の施工に適しています。

工法イメージ

高圧噴射攪拌工法のイメージ
高圧噴射攪拌工法のメリット
  • 施工機械や施工設備が小型で小規模であるため、狭隘地で施工可能です。
  • 他工法の適用が難しい玉石混じり土や礫質土などでも適用が可能です。
  • 対象地に構造物がある場合でも解体無しで適用できます。
  • 施工深度に制限が少なく、深い深度まで対応が可能です。
高圧噴射攪拌工法のデメリット
  • 施工に時間がかかります。
  • 大規模になると高額になる場合が多いです。
  • 排泥が多く発生するため、コストが大きくなる場合があります。

メリット・デメリット

メリット

  • 掘削除去等、汚染の除去を目的とする工法と比べると安価に施工できることが多いです。
  • 揚水等に比べると、ランニングコストが安く、管理の手間もかかりません。
  • 対象地に構造物がある場合でも解体無しで適用できる場合もあります。
  • 対象物質を選びません。

デメリット

  • 形質変更時要届出区域の区域指定解除はできません。
  • 土壌汚染は敷地内に残ったままになります。
  • 行政の指示措置として採用する場合は、第二溶出量基準に適合していなければならないので、封じ込めだけではなく掘削除去等と併用しなければならない場合があります。
  • 対象地に適切な不透水層(粘土・シルト層)が存在しなければ適用が困難です。
  • 不透水層が深い位置にある場合は、高額となる場合があります。
  • 対象地の地中に構造物がある場合は適用できない場合があります。

事例紹介

粘土壁による封じ込め対策を行った事例です。

汚染地で実施することを考慮して、無排泥タイプの工法を選択しました。無排泥工法は通常の粘土壁工法よりも施工費は高額になりますが、環境にやさしいうえ、排泥処分費(汚染土)がかからないため、環境面・トータルコスト面で有利となりました。